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ゲーミングリッシュ~ゲームの国からきたヒトのこと~

翻訳者のお仕事

大貫宏美(大貫宏美行政書士事務所 / 合同会社丸宏 ) 2011-03-09

翻訳者のお仕事

ドラえもんの秘密道具の中で、私が一番欲しいものは「どこでもドア」である。翻訳はとにかく締切に追われる商売で、依頼が入ると1日中家にこもりっきりということも珍しくない。そんなとき、これを使って仏映画「モンテーニュ通りのカフェ」に出てきたカフェ・ド・テアトルのような活気と色彩あふれる店に行き、クロワッサンにかぶりついてそのバターの香りとパリパリしっとりした歯ごたえを楽しみたい。お昼のそんなひと時が最上級の幸福となり、訳語の選択にも少なからず好影響を及ぼすであろうから。

逆に、絶対世の中にあって欲しくないのは、「ほんやくコンニャク」である。言うまでもなく、あの板コンニャク状の発明品は、翻訳者および通訳者に対してのリーサルウェポンだ。食べる(または頭に乗せる)だけで、相手の言語を細かなニュアンスも含めて理解することができる。さらには、お味噌味まで用意して、グルメにも対応しているユーザー目線が憎らしい。

ところが最近、「ほんやくコンニャクが実現した!」と世の中を騒然とさせるアプリが登場した。GoogleがリリースしたAndroidアプリ「Google Translate」である。期待と嫉妬が内心でせめぎ合い、頑なにその存在を無視していた。しかし、もしこれが非常に使える道具であれば、翻訳業務にだって役立つかもしれない。今使っている辞書としては、マウスオーバーポップアップで訳語表示してくれるPDIC unicode for EIJIRO IVが最高の道具だが、もしかしたら、それを越えるかもしれない。こうして、ようやく暗がりから好奇心という名の牛を引き出して、Google Translateの英日翻訳を試してみた。

「To be or not to be, that is a question.」→「するか、質問されていることであるとされていません。」

……なぜか勝利の気分が湧きあがるが、これは歴代の翻訳の大家でも訳が割れる名文であるからいたしかたない、と自戒する。しかし、これほど有名な文章がテンプレートとして入っていないものなのか。自分で名文辞書などからイディオム登録することができたら、もっと精度が上がるだろう。しかし、実現したとしても普段使いのユーザーには面倒な話だ。非常に正確にしゃべる日常会話でしか、快適には使えないようである。

続いて、日英も試してみた。

「あほちゃいまんねん、ぱーでんねん」→「Iman tea crazy year, year Bomber electric ―.」(イマン川の夕べ 狂気の年 電撃的テロリスト)

この通り、方言には全く対応していない。一見するとまるで俳句か、思わせぶりな詩の一節のようだ。村上春樹も言っていたかと思うが、方言と標準語ではそれを使うときの思考体系が変わってしまう。言語の背景となる文化や文脈が違うので、会話では本来の言葉を使いたい。いずれは、関西弁、九州弁、東北弁くらいには対応して欲しいところである。翻訳でもこの方言の問題はいつも付きまとう。プログラミング翻訳では問題になったことはないが、文学ではこれが顕著である。もっとも、これは南部訛りの英語を標準語に訳すかどうかというような、より高次元の問題である。

特に映像翻訳の日本語字幕などではそこが難しいようで、結局うまく方言のニュアンスは伝わっていない。

例えば、私の好きな米ドラマ「クローザー」の主人公、ブレンダ・リー・ジョンソンは、強い南部訛りのある金髪女性で「センキュゥウーーウ」というセリフが特徴的である。南部訛りと金髪が、田舎のダイナーのセクシーなウェイトレスというステレオタイプを彷彿とさせるからこそ、ロス市警の殺人特捜班・本部長補佐に抜擢された彼女に対する、周囲の男性刑事たちの複雑な感情に面白みが出てくるのはないかと思う。字幕ではただの「サンキュー」になっているのが残念だ。

結論として、Google Translateは、ほんやくコンニャクの敵ではない。そして、われわれ翻訳者も、今のところ大敗を喫することはなさそうである。仕事道具として使えないのは残念なことだ。

翻訳の仕事では、文法を正確に読み取る技術だけではなく、有名な言い回しの記憶、または少なくとも、その文章が著名なセリフの切り取りであることを見抜く勘を養う必要がある。あと5年は首の皮が繋がったかな、と安堵しつつ、自らの翻訳技術を向上させて最後の審判を先のばしにすることを誓ったのであった。

そんな矢先にこの連載話をいただき、またとないチャンスに飛びついたというわけだ。海外の最新情報や論文内容をご紹介する中で、いくつか翻訳ポイントを解説していくので、厳しく批判しながらお楽しみいただければ幸いである。

過去の業務紹介

連載を開始するにあたって、私が今までに手がけてきた翻訳の例をいくつか紹介していく。ゲームに関連しているものも、そうでないものもあるが、参考までに。書籍の情報は、出版社の書誌ガイドから引用させていただいた。

ソーシャルアプリ・プログラミング (英→日)

本書は、Twitter APIFacebook PlatformGoogle Friend Connectの概要からその使い方を解説している。世界三大ソーシャルプラットフォームとサイトの連携を可能にする技術が詰まった1冊である。新時代のマーケティングにソーシャルな機能を持つWebサイトを活用したい方におススメの1冊!

ゲームエンジン・アーキテクチャ(英→日)

 「アンチャーテッド」の開発者による大著。プログラミングの現場で翻訳化が待ち望まれていた1冊。エンジンやグラフィックス、ゲームプレイシステムなど、プロの現場で培われたノウハウ満載。バンダイナムコゲームス社開発陣の監修による、珠玉の名著の完訳決定版!  

ゲームコーディング・コンプリート ― 一流になるためのゲームプログラミング(英→日)

ゲーム開発において、プログラマがどんなことをするのか、その設計手法からゲームAI、グラフィックスまで網羅的に学べる1冊。「グランツーリスモ」シリーズ・プログラマの手島孝人氏監修のゲームプログラミングバイブル!    

モンドセレクション申請用パッケージ英訳 株式会社エバーライフ「おいしい青汁」:モンドセレクション銀賞受賞(日→英)

日英でやった一番面白かった仕事をご紹介。モンドセレクションは申請書類を英語で出さなければならず、日本語の商品パッケージを英訳して欲しいとの依頼。「おいしい青汁」の訳語で悩んだ結果、結局、シンプルに「TASTY AOJIRU」で落ち着いた。結果としては、モンドセレクション銀賞をいただいた。賞を受賞してから、売り上げが急上昇したそうである。ほっ。

次回の記事は、ゲーム業界の有名ニュースサイト、ガーマスートラの中から興味深いニュースをピックアップしてお届けする予定。

筆者紹介/ 大貫宏美 (大貫宏美行政書士事務所 / 合同会社丸宏 )
京都大学教育学部教育心理学科卒業。行政書士。企業システム保守を主とするコンピュータ会社勤務後、京都大学医学研究科にてJavaプログラミングに携わる。その後、合同会社丸宏を設立し、研究開発コンサルタントとして大学と企業の産学連携を進めるかたわら、コンピュータやライフサイエンス専門に翻訳を行う。
http://www.uls-labo.jp/

ゲーミングリッシュ~ゲームの国からきたヒトのこと~

世界の様々なコンテンツを日本語訳する「翻訳」。この連載では、現役の翻訳者が海外のゲーム業界の最新情報や最新の論文内容をまとめてご紹介しつつ、翻訳のポイントを解説していきます。

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