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SIG-Glocalization#13レポート 前半

小野憲史(ゲームジャーナリスト) 2014-12-09

◆アプリの海外展開で知っておくべき知見~SIG-Glocalization#13レポート

NPO法人IGDA日本グローカリぜーション部会(SIG-Glocalization)は11月15日、第13回研究会「アプリの海外展開、どうしていますか?」を開催しました。第一部ではDICO取締役のエミリオ・ガジェゴ氏エンザイム池田英一氏が「基礎知識&海外展開のヒント」と題して講演し、ローカリゼーションにおける基礎知識を共有しました。

エミリオ氏は任天堂ヨーロッパ、グリーなどを経てDICOの創業メンバーとなり、アプリ開発やローカリゼーション業務などを推進しています。池田氏はカナダに本社をもつエンザイムの日本法人代表として、QAや言語デバッグなどのサービスを提供。エミリオ氏は部会の正世話人、池田氏は副世話人もつとめており、勉強会の準備も手がけました。

当日の講演資料はネット上(http://www.slideshare.net/igda_jp/sigglocalization-13)で共有されていますので、本講ではそのフォローアップを行っていきます。非常に詳しい内容ですので、あわせてご覧ください。

さて、はじめにエミリオ氏は一般的にローカライズまたはローカリゼーションと一括りにされることの多い業務について、大きく「ローカリゼーション」「インターナショナライゼーション」「グローバリゼーション」の3段階にわけて説明しました。

ローカリゼーションとはゲームを他言語・多文化圏の市場に対して修正・変更する業務全般をさします。その内容はテキストの翻訳(トランスレーション)だけに留まりません。そのゲームがその市場で文化的な問題を内包していないか(暴力・性的・地政学・宗教面など)、その市場で魅力的なものになっているか(グラフィックデザインなど)検討し、必要であれば修正する作業(カルチャライゼーション)も含まれます。

ただし、ローカリゼーションを適切に進めるためには、ゲームがそれに適した構造になっている必要があります。テキストがソースコードと分離しており、データを流し込んで修正するだけの状態になっている、などはその一例です。このように多言語対応に向けたゲームの構造化をインターナショナライゼーションと呼びます。インターナショナライゼーションをゲームの完成後に行うとコストが非常にかかるため、製作段階から海外展開を見こして行っておくことが重要です。

そして最後にゲームのパブリッシング事業に関するすべての作業(マーケティング、宣伝、法務対応、サポート、コミュニティマネジメントなど)を、グローバリゼーションと呼びます。アプリの海外展開をするうえで、開発と並んで重要な業務であることは、言うまでもありません。エミリオ氏は、こうした知見はコンソールの大手パブリッシャーを中心に蓄積されてきたが、ソーシャルゲーム系の企業にはまだ乏しいのではないかと問題提起を行いました。

◆唯一無二の例はない海外展開で大事なことは?

実務では外部のローカリゼーションベンダーを活用することが一般的です。ベンダーはパブリッシャーや開発会社の海外担当などと連携しつつ、外部の翻訳者とも契約し、翻訳実務のマネジメントを行います。また、どれだけ優れた翻訳者でも必ずデバッグ作業が発生するため、言語面でのデバッグも必要になります。

このようにローカリゼーションでは関係プレイヤーが数多く存在し、言語ごとに大量のファイルが飛び交うため、円滑なコミュニケーション体勢を構築することが必要です。翻訳者から開発チームに直接質問ができる仕組み(専用SNSなど)や、翻訳者間での用語や口調を統一するための用語集などは、翻訳のクオリティに直結します。そのためにはベンダーだけでなく、開発チームもまた、事前に適切な準備を行うことが必要となります。

特にゲームならではの要素として、時系列順にシナリオが展開していかないため、テキスト情報に関連する資料の準備が求められる点があります。言語によっては同じ台詞でもキャラクターの性別や年齢、相手との距離によって言葉遣いが変わります。モンスターや武器などの固有名詞では、画像ファイルの有無も重要になります。前述したようなインターナショナライゼーション(特にソースコードの対応)も必須です。

カルチャライズではFacebookでの実例が示されました。Facebookのログインページでは、同じ英語でもアメリカ版とイギリス版で用語や言い回しが微妙に異なっています(Last nameとSumame、年月日の順など)。アラビア語やヘブライ語版ではUI自体が右から左に変更されています。グリーのソーシャルゲーム「海賊コロンブス」でも、女性キャラクターや宝箱などがリアル調に修正されました。エミリオ氏は「これらはすべて、ユーザーに自国で作られたものと変わらない感覚で接してもらうための工夫」だと言います。

もっとも、カルチャライズ(そして海外展開)には唯一無二の正解はありません。会社の規模や予算、コンテンツの種類によって、正解は異なるでしょう。ただしエミリオ氏は「海外展開自体を諦めてしまうのは良くない」と釘を刺します。そのため最低限、インターナショナライゼーションを考慮したゲーム開発を進めることが重要だと指摘しました。これがきちんとできていれば、いざ海外展開が必要になったときでも、多くの場合テキストの流し込みと修正だけで、とりあえずコンテンツの準備が整うからです。

◆言語デバッグそしてグローバリゼーション

講演の後半では池田氏が言語デバッグについて解説しました。言語デバッグとは翻訳作業が終了した後に、実機上で行うデバッグ作業のことです。テキストのはみ出しや文字化け、翻訳抜け、倫理チェックなどがメインで、端末の機種依存や通信周りのチェックもある程度は必要だといいます。池田氏はあるゲームのメニューで「CREDIT」が「信念」と訳されていた例を紹介しました。ここは「課金」が正解ですが、CREDITには信念という意味もあります。こうしたチェック漏れをしないためにも、言語デバッグが必要なのです。

もっとも翻訳や言語デバッグにはさまざまな業者が存在し、価格帯もまちまちです。基本となる日本語から英語への翻訳(海外言語の多くは英語版をもとに翻訳されます)で1文字あたり2.5円から20円、言語デバッグでは1時間当たり2000円から6000円などの開きがあり、10~30%のプロジェクト管理費も必要です。発注元としてはコスト面を重視しがちだが、安かろう悪かろうになりがちなのも事実。エミリオ氏は「1文字10円以下はお勧めしない」と指摘しました。また池田氏もプロジェクトに応じて適切な予算観を持って欲しいと語りました。

最後にグローバリゼーションに関する指摘もありました。まずホームページは最低限、英語版を作成した方が良いと言います。アプリマーケットで興味を持ったユーザーが、企業のホームページを閲覧する可能性が高いからです。同様にアプリマーケットの説明文やスクリーンショットも、たとえゲーム内は英語版しかなくても、配信する市場ごとにローカライズするべきだと言います。実際にパッケージゲームでも、「ゲーム中の表示は英語のみ」と注釈を加えつつ、各国語版の外装を用意する例は少なくないと言います。

このほか、プレスリリースやマーケティング資料の他言語化、動画共有サイト向けの動画作成、各種SNSのアカウントやコミュニティマネジメントなどの準備も必要になります。海外のゲーム専門サイトへの記事露出も宣伝活動には欠かせません。レビュー記事のタイアップについても戦略的に仕掛けていくべきだと補足されました。

筆者紹介/ 小野憲史 (ゲームジャーナリスト)
平日は主夫業に忙しいゲームジャーナリスト。 雑誌『ゲーム批評』編集長を経て2000年よりフリーランスで活動中。Webを中心に業界レポート、インタビュー、コラムなどを発表している。 2012年よりNPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表。

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